全国でクマの出没が相次ぎ、2025年は死者数が過去最多12人に達する見込み(環境省調べ)。
被害拡大の一方で、実際に命懸けで現場に向かうハンターの報酬は「1万円前後」という現実があります。
一方、キョンや蜂、害獣など他の動物駆除には高額な報奨金や費用が支払われるケースも——。
この記事では、熊駆除の報酬の実態と、行政・民間での費用差をわかりやすく比較します。
クマ駆除は命がけ、それでも「1頭1万円」

出典元:https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/2407.html
2025年10月、秋田市はツキノワグマの出没急増を受けて、駆除にあたる猟友会員への報酬を出動1回8,000円、捕獲1頭1万円に増額しました(週刊女性PRIME・2025年10月31日配信)。
「命懸けで1万円は安すぎる」
「キョン1頭3万円に比べて低すぎる」
——SNSではこうした声が相次ぎました。
秋田市では10月だけで人身事故7件、熊の目撃情報は1796件。
現場に向かうハンターの負担は増え続けています。
熊駆除報奨金の全国比較

出典元:https://www.sankei.com/article/20231104-HP6PN6HBPVBDPAJ3ZMKHXZ2CAA/
| 地域 | 熊1頭あたり報奨金 | 出動費 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 秋田市 | 1万円(2025年度特例) | 8,000円 | 今年度限定で増額 |
| 北海道・浦河町 | 1万円 | 5,000円 | 箱わな設置も1万円 |
| 北海道・紋別市 | 6万円 | - | 北海道内で最高水準 |
| 奈井江町(2024年) | 1万300円 | - | 猟友会が「安すぎる」と辞退 |
| 東北平均 | 2〜3万円 | 5,000〜1万円 | 地域差大 |
引用元:ファイナンシャルフィールド(2025年9月5日配信)・各自治体公表資料から一部抜粋
こうしてみると、報奨金の全国平均は1〜6万円程度。
しかもこの中には、弾薬・ガソリン・移動・装備費などが含まれることもなく、
「手元にほとんど残らない」というハンターも少なくありません。
「四国のクマの歴史と現在」
四国では1930年代、クマ1頭に50円(米一升が40銭の時代)の奨励金が出され、戦後の1970年代には1頭あたり40万円という高額報奨金もあったといいます。
しかし、過剰な駆除の結果、四国ではツキノワグマの生息域が剣山山系のごく一部にまで縮小。
1980年代からは「保護」の対象へと転換し、高知県や徳島県では捕獲禁止措置がとられています。
現在、秋田や北海道で「駆除のための報奨金」が議論される一方で、四国では「最後の一頭を守るための保護費用」が課題となっており、地域ごとのクマ対策の方向性の違いが浮き彫りになっています。
引用元:https://www.wwf.or.jp/activities/eventreport/1868.htmlから一部抜粋
⚠️危険と責任の割に合わない現実
熊は時速60kmで走り、1撃で人を死に至らしめる力を持ちます。
駆除現場では一発必中が求められ、失敗すれば反撃されるリスクも。
環境省のデータによると、熊による人身被害の約半数はハンター自身。
重傷や後遺症が残る例も多く、まさに命懸けの仕事です。
それでも報奨金は「1万円から数万円」。
燃料費や弾薬費を差し引くと、日給換算で数千円レベルになるケースもあります。
熊の駆除の現場で起きた実話
私の知人の猟師から聞いた話ですが、彼の仲間が熊を撃った際、倒れた熊が「死んだ」と思って近づいたところ、実は熊は死んだふりをしており、突然反撃に転じました。その結果、彼は顔面に深刻な傷を負い、顎を失うほどの重傷を負ったそうです。
このような事例は、熊の駆除がいかに危険を伴うかを物語っています。熊は非常に賢く、瀕死の状態でも反撃する力を持っているため、駆除作業には高度な技術と慎重な判断が求められます。
🦌一方、他の動物では「1頭3万円」も?——キョン・イノシシ・鹿の比較

出典元:https://www.kaku-ichi.co.jp/media/wildlife/muntjac
熊より報奨金が高い「害獣」も存在します。
たとえば、千葉県や東京都で問題となっている特定外来生物「キョン」。
茨城県つくばみらい市では、
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目撃報告:2,000円
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捕獲:1頭あたり3万円
東京都でも、敷地内で捕獲した場合に8,000円の報奨金が支払われています。
キョンは増えすぎると農作物被害を引き起こすため、駆除奨励金の対象となっています。
熊が命懸けで1万円、キョンが1頭3万円という「逆転現象」は、SNSでも議論を呼びました。
🐗イノシシ・鹿など他の害獣の駆除報酬(行政ベース)
| 対象動物 | 行政報奨金(1頭) | 民間費用(依頼時) | 備考 |
|---|---|---|---|
| イノシシ | 約5,000〜10,000円 | 約3〜10万円 | 罠設置に補助あり |
| シカ | 約5,000〜15,000円 | 約5〜15万円 | 地域で捕獲隊が対応 |
| アライグマ・ハクビシン | 無料〜1万円 | 約2〜5万円 | 屋根裏など民家被害が多い |
| ネズミ | 無料(自治体助成) | 約6〜10万円 | 再発防止含む |
| コウモリ・イタチ | 数千円 | 約8〜20万円 | 法令許可が必要 |
熊と比べると危険性は低いものの、
行政対応では駆除報奨金が比較的安定して支払われています。
🐝スズメバチ駆除の費用——民間が主導する高額市場

出典元:https://hachicenter.jp/knowledge-list/knowledge-22/
蜂の巣駆除も、実は自治体と民間で大きな差があります。
【行政対応】
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無料〜5,000円(地域による)
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対象は公共施設や高齢者宅に限定されることも
【民間業者】
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スズメバチ:2万〜10万円
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オオスズメバチ:4万円以上
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屋根裏・高所:追加料金+1〜2万円
「危険度に比例して高額になる」のが蜂駆除の特徴です。
(引用元:トータルクリーン社/波留貴「スズメバチ駆除の費用相場」2025年7月)
蜂駆除業界では「1件あたり数万円」が常識となっており、
熊駆除の“命懸け1万円”との対比が際立ちます。
民間害獣駆除業者の料金はなぜ高い?
民間業者に害獣駆除を依頼した場合の費用相場は6万円〜30万円。
(引用元:ROY・ハウスプロテクト社「害獣駆除の相場」2023年)
費用が高い理由は以下の通りです:
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被害状況の調査・修繕・再発防止まで含まれる
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駆除後の糞尿清掃・消毒・封鎖工事も実施
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「再発保証」や保険が含まれる
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高所作業・夜間対応など追加費用が発生
一方、行政が委託する熊駆除では、これらの作業コストがほぼ「自己負担」です。
命を張っても装備費・燃料費が支給されないケースも多く、
民間と行政の“単価差”は最大10倍以上に広がっています。
ハンター減少と今後の課題
環境省によると、狩猟免許保持者は昭和50年の52万人から、令和2年度には22万人にまで減少。
特に60歳未満は約80%減少しています。
原因は次のとおりです:
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狩猟免許の取得・更新費が高い
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銃・弾薬・保険など装備コストが大きい
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社会的批判(「かわいそう」「動物愛護団体の圧力」など)
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報酬の低さで新規参入が進まない
2024年には北海道奈井江町の猟友会が、
「1頭1万300円では採算が合わない」として行政依頼を辞退する事態も発生。
今後、駆除依頼に応じるハンターが不足すれば、
熊の被害はさらに拡大する懸念があります。
行政と民間の費用比較まとめ
| 区分 | 対象 | 平均費用・報奨金 | 担当 |
|---|---|---|---|
| 行政(自治体委託) | 熊 | 1〜6万円/頭 | 猟友会・ハンター |
| 行政 | イノシシ・シカ | 5千〜1.5万円/頭 | 地域捕獲隊 |
| 行政 | 蜂 | 無料〜5千円 | 消防・委託業者 |
| 民間業者 | 熊(補助的対応) | 対応なし | 猟友会・ハンター |
| 民間業者 | 蜂 | 2〜10万円 | 専門業者 |
| 民間業者 | 害獣(ネズミ・コウモリ等) | 6〜30万円 | 住宅系業者 |
熊駆除だけが突出して「危険度に対して報酬が低い」ことが、
この表からも明確にわかります。
まとめ
熊や害獣の駆除は、私たちの生活の安全を守るための公共インフラの一部です。
にもかかわらず、その現場を支えるハンターたちの報酬は、
いまだ「ボランティアに近い水準」にとどまっています。
蜂駆除に数万円、ネズミ駆除に数十万円が払われる一方で、
熊を仕留めても「1万円」という現実。
これは、社会として見直すべき“アンバランス”と言えるでしょう。
「熊を撃つのは簡単じゃない。
一発外せば自分がやられる。
それでも1万円だと言われると、出る人が減るのは当然」
——東北地方ハンター(地元紙インタビュー)
命を懸ける人に、命に見合った報酬を。
ハンターの高齢化・減少が進む中、今後の熊対策には「報酬の見直し」だけでなく、「制度の再設計」や「地域との連携強化」が不可欠です。